PROJECTS 印西市の新しいオリジナル

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PROJECT.05

ー推理作家・白井智之が読み解く“インザイの謎”ー


MYSTERY in INZAI

古来からの伝承、街角の不思議な痕跡、真偽不明のうわさ話ーー印西で語り継がれる数々の「謎」に、印西出身の推理小説家・白井智之さんが迫る!

Mystery. 03「市井橋」の謎。

まず投稿を二つ紹介する。


“夜、市井橋を渡ると、すすり泣くような声が聞こえます。近くにお住まいの方によると、年に数人、橋から飛び降りて亡くなる方がいるそうです。(中略)仕事にも家族にも恵まれ、自殺するとは思えないような方ばかり亡くなっているそうです。”

“なぜか遠くからやってきて、市井橋で入水自殺をする人がいる。高齢者の中には、橋に呼ばれたのだ、と言う人もいる。”

市井橋は印旛捷水路に掛かる橋の一つだ。印西市在住の方は、県道65号の山田橋から見える赤いアーチ橋と言えばお分かりになるだろうか。

初めに断っておくと、ぼくは幽霊を信じていない。伽耶子も貞子もサマラも大好きだが、彼らの仲間と出会ったことはない。「わたし、見えるんです」などと言われると、変な数珠でも売られるのかと身構えてしまう。

そんなわけで、ずいぶんと法螺を吹いてやがるな、というのが二つの投稿を読んだ感想だった。と同時に、嫌な予感がしたのである。この連載を担当するО沢という編集者は、誰彼かまわず十五番煎じの怪談話を披露して人を呆れさせるタイプのホラー好きのおっさんで、案の定、「突撃取材をやりたい」と言い出した。

どうせ何も起こらない心霊スポットへ、おっさんと二人で出かけるのは気が進まなかったが、О沢が「幽霊の泣き声が聞きたい」と譲らないので、やむなく第三回のテーマに取り上げた次第である。

はたして幽霊の鼻啜りを聞くことはできたのか? 以下に一部始終を記す。

八月十四日。前述の通り、編集者О沢のわがままで、二十一日に市井橋を訪ねることが決定。

八月二十日。О沢から着信。「ごめん。明日の予定、延期させて。風邪こじらせちゃってさ」大げさなほど声が嗄れている。「市井橋に行くって決めてから、肩が重いんだよね」

――白状すると、ぼくはО沢を疑っていた。せっかく心霊スポットを訪ねるのに、ぼくが平然としているから、怖がらせようと芝居を打ったのだろう。

八月二十一日、早朝。ふたたびО沢から着信。「すっかり良くなった。やっぱり行こうか」いつもの猥雑な口調に戻っている。やはり演技だったか。

同日、二十二時過ぎ。木下駅でО沢と待ち合わせ。手配しておいたタクシーで市井橋へ向かう。

移動中、スマホに着信。電話に出ても何も聞こえない。気味が悪いが、いたずら電話か。

二十二時三十分、市井橋に到着。

橋の上は湿っぽい風が吹いていた。となりの山田橋にはちらほらと車が走っているが、市井橋にはまったく人気(ひとけ)がない。耳を澄ますと、虫の鳴き声、葉の擦れる音、それに川のせせらぎが微かに聞こえる。残念ながら泣き声は聞こえない。

「無駄足でしたね」

ぼくがО沢に皮肉を言ったそのとき、タイヤが土を踏む音が聞こえた。西側の橋の袂に軽トラが停まり、運転席から七十過ぎの男性が首を出す。

「お前、橋に呼ばれたのか」

老爺が言った。乾燥したソラマメみたいに顔色が悪い。

「どういうことです?」

ぼくが質問を返すと、老爺は小さく息を呑み、声を硬くした

「お前は橋に招かれたんだ。もう帰りなさい」

それだけ言うと、老爺は運転席へ戻り、軽トラで道を引き返した

何だったの?

「さあ」

ぼくとО沢は揃って肩をすくめた。

その後も十分ほど橋の上をうろついたが、幽霊の泣き声とやらを聞くことはなく、ぼくらは印西牧の原駅前のビジネスホテルに一泊して印西市を後にした。

以上が突撃取材の顛末である。奇妙な老人と出会ったほかに、釣果はなし。老人もО沢が仕込んだ役者かもしれないが、野暮なので質していない。ホラー映画なら退屈すぎて苦情が来るところだが、現実の心霊スポット突撃記はこんなものである。

――と、当時は思っていたのだが、それは勘違いだった。八月二十二日、市井橋を訪ねた翌日の夜。О沢からふたたび着信があったのだ。

「昨夜も電話したんだけど、つながんなくて。一日休んだらすっかり良くなったよ」

彼は普段通りの荒っぽい口調で続けた。

「突撃取材、何日にする?」

PROFILE

白井智之(TOMOYUKI SHIRAI)
印西市出身の推理作家。『人間の顔は食べづらい』(KADOKAWA)が第34回横溝正史ミステリ大賞の最終候補作となり、同作でデビュー。近刊に『名探偵のはらわた』(新潮社)、『そして誰も死ななかった』(KADOKAWA)など。

Illustration by gennhiraqui
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千葉県北西部に位置する印西市は、千葉ニュータウンをはじめとする住環境と豊かな自然に恵まれ、「住みよさランキング」7年連続の全国1位も記録しています。しかし、そんな“住みよさ”の一方で、個性があまり目立たない……という声もちらほら。
「MAKE INZAI ORIGINAL」は、そんな印西に市民の手で“印西らしさ”をアピールするモノ・コトを作り出し、印西の新しい魅力を発信していくプロジェクトです。
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