PROJECTS 印西市の新しいオリジナル

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PROJECT.05

ー推理作家・白井智之が読み解く“インザイの謎”ー


MYSTERY in INZAI

古来からの伝承、街角の不思議な痕跡、真偽不明のうわさ話ーー印西で語り継がれる数々の「謎」に、印西出身の推理小説家・白井智之さんが迫る!

Mystery. 05日常に潜む謎。

気づけば連載も五回目。今回は番外編をお届けする。

印西市民および関係の深い方から市にまつわる“謎を投稿していただき、ぼくがそこから面白いものを選んでいい加減な推理や解釈を披露する、というのがこの連載の要旨である。当初はこんな訳の分からない企画に投稿が集まるのかと心配だったが、ありがたいことに期待以上の数の投稿が集まった。さすがは「住みよさランキング」(東洋経済新報社)総合評価一位から二年で三十二位に暴落した印西市である。

寄せられた投稿には「龍の尻が降ってきた」「火の玉が浮いた」「自殺が相次いでいる」といったスケールの大きな謎もあれば、日常生活の中でふと疑問に感じるような小さな謎もあった。今回はそんな小さな謎をいくつか選んで紹介したい。

1.学校を飛び越える少年

“千葉竜ケ崎線の船穂小学校付近に一風変わった道路標識があります。学校があることを示す標識といえば、子ども二人が揃って歩く図柄が多いですが、これはアスリートを彷彿とさせる跳躍力で学校(SCHOOL)を飛び越えています。標識がかすれ柱が錆びていることから相当古いことが想像できますが、なぜ、この一枚だけ残ったのか。付近には駐在所もあるから、警察官の趣味が関係するのだろうか。”

旧式の道路標識について調べてみると、このデザインは昭和二十五年(一九五〇年)三月の道路標識令改正で採用され、昭和三十五年(一九六〇年)十二月に変更されるまで用いられたものだと分かる。

GHQ占領期に制定されたこともあり、当時のデザインには日本語、英語、イラストを併用したものが多い。限られたスペースに多くの文字を配置すれば、それだけイラストの形状も制限される。そんな制限の中で生み出されたのが、両脚を大きく開いた少年のイラストだったのではないか。少なくとも近所のお巡りさんの趣味ではなさそうなのでご安心を。

2.頭を割る踏切

“JR成田線の木下駅~小林駅間、木下東と竹袋の境界付近の踏切が「頭割踏切」と名付けられている。なぜこんな怖い名前なのか。”

人づてに近隣住民の方にも話を聞いてみたのだが、名称の縁起は分からなかった。平将門伝説を由来とする向きもあるようだが真偽は定かでない。いずれにせよ「この踏切は頭割踏切という名前にしよう」と決めた鉄道職員がいたはずで、ただデリカシーがなかったのか、わざと悪趣味な名前を付けたのかが気になるところ。

3.印旛沼の怪鳥

“印旛沼で見たこともないほど大きな鳥が飛んでいるのを見ました。ただ、お酒を飲んでいたので、本物か幻覚か分からずもやもやしています。”

近くにお住まいの方はご存知と思うが、印旛沼には一羽のモモイロペリカンが暮らしている。この種は日本には生息しておらず、なぜ印旛沼に現れたのかは不明だという。

十中八九、投稿者の方が見たのはこれだろう。もっとでかかったという場合はご一報ください。

4.地下道から響く声

“木下駅の地下道で、夜中に誰もいないのに声が聞こえることがあります。”

ぼくは大人なので、物音だけで幽霊を信じるほど素直ではない。「幽霊の正体見たり枯れ尾花」というやつで、足音か風の抜ける音を声と聞き違えたのだろう。もしその声に話しかけられたらご一報を。

5.斎場の女

怪談じみた話が増えてきたが、最後に極めつけのものを紹介する。印西市で働いていた元タクシー運転手の方からの投稿である。

“深夜十二時を過ぎているにも関わらず、斎場に無線配車。思わず配車係に「人間ですか?」と尋ねると「人間だと思うよ。女性の声だったから」との返事。

正門だって閉まっているのに客がいるわけがない。「キャンセルしたいのですが」「だめだよ。受けちゃったから」「どうしても行きたくないのですが」「どうしても行ってくれ」そんなやりとりの末に斎場へ向かうと、女性が立っていた。

ドアを開けると、女性が乗り込んできて木下の旅館の名を告げた。

「何かあったんですか? こんな時間に斎場なんて?」と聞いてみると、「九十歳を過ぎた祖父が亡くなり、親戚が通夜の席で酒盛りをしていて、寝る場所がなくなってしまった」とのこと。私は思わず大笑いしました。

以上つまらない話でした。”

来年の「住みよさランキング」も暴落が続きそうだ。引き続き投稿をお待ちしています。

PROFILE

白井智之(TOMOYUKI SHIRAI)
印西市出身の推理作家。『人間の顔は食べづらい』(KADOKAWA)が第34回横溝正史ミステリ大賞の最終候補作となり、同作でデビュー。近刊に『名探偵のはらわた』(新潮社)、『そして誰も死ななかった』(KADOKAWA)など。

Illustration by gennhiraqui
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ABOUT メイク インザイ オリジナルについて
印西市民の手で“印西らしさ”を一緒につくるプロジェクト「MAKE INZAI ORIGINAL」

千葉県北西部に位置する印西市は、千葉ニュータウンをはじめとする住環境と豊かな自然に恵まれ、「住みよさランキング」7年連続の全国1位も記録しています。しかし、そんな“住みよさ”の一方で、個性があまり目立たない……という声もちらほら。
「MAKE INZAI ORIGINAL」は、そんな印西に市民の手で“印西らしさ”をアピールするモノ・コトを作り出し、印西の新しい魅力を発信していくプロジェクトです。
新しい「印西のオリジナル」をアピールするイベントやワークショップを、継続的に行なっていきます!

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