PROJECTS 印西市の新しいオリジナル

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PROJECT. 07

ー推理作家・白井智之が読み解く“インザイの謎”ー


MYSTERY in INZAI

古来からの伝承、街角の不思議な痕跡、真偽不明のうわさ話ーー印西で語り継がれる数々の「謎」に、印西出身の推理小説家・白井智之さんが迫る!

Mystery. 07松虫姫伝説の謎 後編

ここからいよいよ松虫姫伝説の謎を解いていきたい。少々ややこしい話になるので、改めて松虫寺のWebサイトに掲載された伝承を読んでから先へ進んでいただければと思う。

前編で述べたように、ぼくは松虫姫伝説に登場したある人物の行動に疑問を持った。その人物とは松虫姫の乳母、杉自である。


彼女はなぜ、萩原の里に残ったのだろうか?


「私ももう寄る年波、身体が弱って都まで帰れそうにありません」というのが杉自の主張である。人より寿命の短い牛が老い耄れてしまったのは良いとしても、人が短期間でそれほど老け込むものだろうか。


この物語――松虫姫の一行が奈良の都を発ってから、萩原の里で病が治癒するまで――の中で経過した時間を推測してみる。平城京から松虫寺までは直線距離で四二〇キロ、歩行距離は五二〇キロほどだから、仮に一日四時間、時速五キロで歩いたとしても、二十六日で到着する計算になる。山賊や大蛇との闘いで消費した時間を鑑みても、四十日もあれば十分だろう。そこから姫が薬師如来に祈りを捧げ、病が治癒するまで二十一日。合計しても、たった二カ月ほどの出来事なのである。


もちろん「寄る年波」というのは言葉の綾で、長旅の疲れで気力を失っていたという可能性もある。だが姫が祈りを捧げている間、杉自は里の人々に文字の読み書きや養蚕の方法を教えていた。息の弱った様子は全くない。


往路で山賊や大蛇が現れたように、復路もどんな危険が待ち受けているか分からない。人手は多い方が良いはずだ。杉自はなぜ、姫と都に戻ることを拒んだのだろうか。


この問いに答える仮説は一つしかない。全ては杉自の策略だったのである。

杉自は萩原の地に生まれた。奈良の都へ移り住んだ理由は分からないが、貴人に見初められ、半ば強制的に連れ去られたのかもしれない。


やがて年を重ねた杉自は、命が尽きる前に萩原の里へ戻り、家族と再会したいと願った。だが理由もなく乳母の責務を投げ出すことは許されない。そこで杉自は大胆な策を弄した。世話をしていた松虫姫の食事に毒を盛ったのである。


松虫姫の体調は徐々に悪化していった。僧医や祈祷師が手を尽くしても症状は治まらない。そんなとき、杉自は松虫姫に萩原の薬師如来の故事を吹き込んだ。いつの時代も心の弱った人間ほど騙されやすいものはない。ましてや十四歳の少女である。松虫姫は暗示に掛かり、何でもない夢を薬師如来のお告げと思い込んでしまった。


聖武天皇は松虫姫の言葉を信じ、警備の武士や乳母の杉自を連れて萩原の里へ向かわせた。杉自は律令を破ることなく、遠く離れた故郷へ旅立ったのである。


やがて一行は萩原の里へ到着した。もう松虫姫の身体を弱らせる必要はない。杉自は食事に毒を盛るのをやめた。松虫姫の体調が良くなったように見えたのはそのためだ。


杉自には最後の仕事が残っていた。皇女に毒を盛ったことがばれたら命はない。杉自は絶対に見つからない方法で毒を捨てなければならなかった。そこで残った毒を牛に飲ませ、死体が見つからないように重りを付けて池に沈めたのである。


杉自が家族と再会できたのかは分からない。だが彼女を知る友人は里に残っていたはずだ。幼馴染みたちの暮らしを支えるため、杉自は文字の読み書きや養蚕の方法を教えた。都への帰還を拒んだのも当然だろう。


松虫姫伝説は、萩原の薬師堂を訪ね病を治した美しい姫の物語とされている。だがその正体は、知恵を尽くして故郷への帰還を果たした老女の物語だったのである。


ここで筆を置いても良いのだが、松虫姫の物語にはさらに後日談がある。病は治ったものの、姫は若くして世を去ったという。ぼくにはそれが自然死とは思えない。姫は一度、薬師如来のご利益で快復したように見えたが、結局、毒害の後遺症で命を落としたのではないか。

とどのつまり、松虫姫は杉自に殺されたのである。



(印西市 シティプロモーション課担当者より)
違います。

INFORMATION

松虫寺
住所:千葉県印西市松虫7
奈良時代に創建されたといわれる、真言宗豊山派の寺院。「松虫姫の伝説」をはじめ、お寺にまつわる情報は松虫寺ホームページをご参照ください。

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ABOUT メイク インザイ オリジナルについて
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千葉県北西部に位置する印西市は、千葉ニュータウンをはじめとする住環境と豊かな自然に恵まれ、「住みよさランキング」7年連続の全国1位も記録しています。しかし、そんな“住みよさ”の一方で、個性があまり目立たない……という声もちらほら。
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