PROJECT. 05
ー推理作家・白井智之が読み解く“インザイの謎”ー
MYSTERY in INZAI
古来からの伝承、街角の不思議な痕跡、真偽不明のうわさ話ーー印西で語り継がれる数々の「謎」に、印西出身の推理小説家・白井智之さんが迫る!
Mystery. 10 最後の謎
いよいよ最終回である。ジャンプの連載でもないので特に感慨もないのだが、まだ取り上げていない投稿がいくつか残っている。お焚き上げも兼ねて、採用できなかった題材をまとめて紹介しておく。
“惨殺屋敷”
初めに編集者と打ち合わせたとき、絶対に取り上げようと決めたのがこれだった。詳細は伏せるが、市内某所に一家惨殺事件が起きたと噂される家があるという。勇んで現地取材にまで出かけたが、いざ書こうとすると手が止まってしまった。推理作家に惨殺屋敷を題材に小話を書けというのは、和菓子職人に餡子で何かつくれというようなものだ。普段やっていることと同じだし、まじめに書いたら四百枚の原稿になってしまう。そう気づいたら気持ちが萎んでしまった。
初めに編集者と打ち合わせたとき、絶対に取り上げようと決めたのがこれだった。詳細は伏せるが、市内某所に一家惨殺事件が起きたと噂される家があるという。勇んで現地取材にまで出かけたが、いざ書こうとすると手が止まってしまった。推理作家に惨殺屋敷を題材に小話を書けというのは、和菓子職人に餡子で何かつくれというようなものだ。普段やっていることと同じだし、まじめに書いたら四百枚の原稿になってしまう。そう気づいたら気持ちが萎んでしまった。
“レイライン”
地図を眺めていると、遺跡やら寺社仏閣やらが一直線に並んで見えることがある。この直線をレイラインと呼ぶらしい。印西市は鹿島神宮と伊勢神宮を結んだレイライン上に位置しているそうで、神秘的な力に導かれUFOが寄ってくるのだとか。印西市が宇宙人に気に入られるのは結構なことだが、これは推理作家ではなくオカルト研究家が取り上げるべき題材である。
“双子公園のナウマン象”
印旛沼のほとりの双葉公園にはナウマン象の像(ややこしい)がある。印旛捷水路の工事中にナウマン象の化石が発見されたことにちなんで作られたものらしい。
地図を眺めていると、遺跡やら寺社仏閣やらが一直線に並んで見えることがある。この直線をレイラインと呼ぶらしい。印西市は鹿島神宮と伊勢神宮を結んだレイライン上に位置しているそうで、神秘的な力に導かれUFOが寄ってくるのだとか。印西市が宇宙人に気に入られるのは結構なことだが、これは推理作家ではなくオカルト研究家が取り上げるべき題材である。
“双子公園のナウマン象”
印旛沼のほとりの双葉公園にはナウマン象の像(ややこしい)がある。印旛捷水路の工事中にナウマン象の化石が発見されたことにちなんで作られたものらしい。
動物の置き物といえばミステリー好きの方は思い浮かぶ作品があるかもしれないが、こちらのナウマン象は宙に浮かぶ気配もない。せめて夜に歩き回るという噂でもあれば良かったのだが、ただ突っ立っているだけでは取り上げられなかった。
“白樫の行列”
北総花の丘公園のEゾーンでは、白樫の木が二〇〇メートルほど真っすぐ並んでいるのを見ることができる。何十年も前から生えているはずの木々がなぜ列をなしているのか。投稿者の方の推察では、かつてそこに通学路があり、子どもたちを風雨から守るために木が植えられたのではないかとのこと。これより説得力のある屁理屈が思いつかず取り上げられなかったが、こうした何気ない風景に疑問を見つけられる方こそが本当に豊かな人生を送っているのではないか、とブラタモリを見てよく思う。
“三角形の土地”
牧の台三丁目に三角形をした謎の緑地があると投稿があった。加門七海先生の『怪談徒然草』(角川ホラー文庫)に収録された『三角屋敷を巡る話』によれば、三角形の土地には神や魔物が宿っており、人が住むとろくな目に遭わないのだという。牧の台三丁目の三角形は緑地だが、取材してみれば何か恐ろしいことが起きているかもしれない。そう思ったぼくは、手始めにこの土地をGoogleMapで調べてみることにした。すると――
“白樫の行列”
北総花の丘公園のEゾーンでは、白樫の木が二〇〇メートルほど真っすぐ並んでいるのを見ることができる。何十年も前から生えているはずの木々がなぜ列をなしているのか。投稿者の方の推察では、かつてそこに通学路があり、子どもたちを風雨から守るために木が植えられたのではないかとのこと。これより説得力のある屁理屈が思いつかず取り上げられなかったが、こうした何気ない風景に疑問を見つけられる方こそが本当に豊かな人生を送っているのではないか、とブラタモリを見てよく思う。
“三角形の土地”
牧の台三丁目に三角形をした謎の緑地があると投稿があった。加門七海先生の『怪談徒然草』(角川ホラー文庫)に収録された『三角屋敷を巡る話』によれば、三角形の土地には神や魔物が宿っており、人が住むとろくな目に遭わないのだという。牧の台三丁目の三角形は緑地だが、取材してみれば何か恐ろしいことが起きているかもしれない。そう思ったぼくは、手始めにこの土地をGoogleMapで調べてみることにした。すると――
四角形だったのである。
*
まとまりのない最終回になったが、この訳の分からない企画に投稿を頂いた方には改めてお礼を申し上げる。連載を読んで印西市が変な街だと気づいた、それなりにまともな街だと思っていたが目が覚めたという方がいたら、市がぼくに小銭を払った甲斐もあったというものである。なお、これでは物足りない、もっと千葉ニュータウンの住人が大変な目に遭うお話が読みたいという方は、ぜひ拙著『東京結合人間』(角川ホラー文庫)をお読みください。
PROFILE
白井智之(TOMOYUKI SHIRAI)
印西市出身の推理作家。『人間の顔は食べづらい』(KADOKAWA)が第34回横溝正史ミステリ大賞の最終候補作となり、同作でデビュー。近刊に『名探偵のはらわた』(新潮社)、『そして誰も死ななかった』(KADOKAWA)など。
取材協力:いんざいパルケ
Illustration by gennhiraqui
Illustration by gennhiraqui
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千葉県北西部に位置する印西市は、千葉ニュータウンをはじめとする住環境と豊かな自然に恵まれ、「住みよさランキング」7年連続の全国1位も記録しています。しかし、そんな“住みよさ”の一方で、個性があまり目立たない……という声もちらほら。
「MAKE INZAI ORIGINAL」は、そんな印西に市民の手で“印西らしさ”をアピールするモノ・コトを作り出し、印西の新しい魅力を発信していくプロジェクトです。
新しい「印西のオリジナル」をアピールするイベントやワークショップを、継続的に行なっていきます!